第一章 境遇

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暫く沈黙が続いて、そっと顔をあげると、彼女は茫然とチケットを見つめたまま立っていた。 それから、ようやく、絞り出すように呟いた。今日がこんな日になるなんて想像もしていなかった、とぽつりと。 「この服、今日のデートのために買ったのよ……」 普段は気の強い彼女が、自分で自分の言葉にとうとう泣き出してしまった。それなのに僕は、なにもできなかった。 今の僕には、これ以上自分自身ではどうにもできない境遇のせいで謝罪する余裕もなかった。 僕は僕の人生を受け止めるのに、必死だった。 僕なんかと付き合っていたことなんてきっとすぐに忘れるだろうけど、この子もそれなりに僕と一緒の大学に行けることを未来に描いて楽しみにしていたんだろう。 そう思うと、申し訳ない気持ちになったけど、でも、待っててなんて言えなかった。 「本当に、ごめんね……」 僕は明日、星しかない村に帰る。
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