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第二章 出会い
飯田駅からバスを乗り継ぎ、農家と農作物の直売所を営む祖母の家に着いた時、正直僕は未だに現状を飲み込めていなかった。
山あいに佇む家はとても懐かしくもあったが、よくこんなところで普通に生活できていたなと思うほど田舎だ。
年季の入った瓦を重たそうに乗っけた、木造建築のこの平屋は、推定築五十年はいっているであろう。
木々に囲まれたその家を、まじまじと見つめていると、改めて不安や不満がふつふつと浮かんできた。
どうして僕がこんなことに。
遊ぶ時間を全て捨てて受験勉強をしていたあの日々が無駄になったのかと思うと、壁に頭を百回打ち付けても足りないくらい腹立たしい。
「帷、おっかない顔してないで。ただでさえ目つき悪いんだからあんた」
母親に小突かれて、僕は仕方なく口角を上げた。父はいつも通り、申し訳なさそうに背中を丸くしている。
母が、引き戸を開けて「おかあさーん?」と豪快に呼ぶと、奥からちっちゃい祖母が出てきた。
「おどけたあ、帷(トバリ)君、すっかりおっきぐなって。身長お父さんよりあるだか?」
祖母と会うのはここを出て行って以来だから、実に七年ぶりだった。母は一人でなん度か帰省していたけれど、あまりに遠すぎて正月も僕と父さんは家に残っていた。
祖母は手ぬぐいを首にかけたまま、さあ上がって上がってと言って、僕たちを居間に通した。
区切りのない、だーっと広がった畳の部屋を見て、幼い頃の記憶がぼんやり浮かんできた。そういえば、よく座布団を崩れるほど重ねて、その上に何秒座っていられるか友人と競ったものだった。
祖母が広げてくれた座布団に座ると、母はマシンガンのように愚痴を言い始めた。
「折角都心に出てうまいことやってたんに、雅仁の食品会社で食中毒事件起こって、一気に倒産。七年前、長野の勤務地から急に東京に転勤になってうかれたけど、ほんと社員寮にしててよかっただ」
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