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方言が全く似つかわしくない巻き髪をバサッとかきあげて、母は父を睨みつけた。
父は俯向くばかりで、なにも言わずに静かに祖母に頭を下げる。
そんな光景を見て、僕は父のことをかわいそうとも、情けないとも思わなかった。なにも感じなかった。
こんな境遇になったのは、一体誰のせいだ?
父の会社の品質管理の職員のせいか、それとも工場の設備か、管理が行き届いていなかった経営者か、それとも食中毒の菌を恨めばいいのか。
父は、ごめんな、となん度も僕に謝った。謝るくらいなら僕の未来を返して欲しかった。
「ほうかい、でもここにいれば食べるには困らないだ。好きなだけいればええ。帷君のこと覚えとる同級生もきっといるずら」
しわでほとんど白目の見えなくなった、黒目がちの三角目をくしゃっとさせて、祖母は笑った。
僕のことを覚えている同級生なんて、いるのだろうか。この村に、僕の居場所なんて見つけられるのだろうか。
行き場のない怒りだけが、僕の胸の中で暴れ回っていた。
その怒りは父の丸い背中を焼き付け、母を焼き付け、祖母にまで飛び火しそうなほどだったから、僕は居間を離れて外へ出た。
「日本一の星空が見られる村」として有名なここ、阿智村で、僕は嫌ってほど輝く星の下で暮らしていた。
昼神温泉と星空鑑賞目当ての観光客は近年ずっと増加し続けており、村の資金も潤ってきている。
それでも僕は、この村を飛び出したくて仕方がなかった。
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