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◇
「ねえねえ優ちゃーん」
そんな猫なで声がする。
その声を聞く度に、俺は深い溜め息を吐く。
「何? 今って受験勉強で忙しいんだけど」
高3の秋、机に向かっていた俺は、くるりと椅子を回転させてその声の主と向き合った。
そこに居たのは俺の3つ上の姉、萌だ。
この女は天然で媚びを売ってくる。
そこそこの外見も手伝って結構モテると言うのに、本人は恋愛事には非常に疎く、未だ彼氏ナシ。
そこで何かしら弟である俺を頼ってくるのだから、はっきり言っていい迷惑だ。
「あのね、一生のお願いがあるの!」
ほら、やっぱり出た。いつものこれ。
軽々しく「一生のお願い」と言う言葉を何度も使うべきではない。
と、心中でぼやく。
「ね、ちょっと着いて来て?」
そう言って俺の肩口をくいと摘む。
一体何処へ連れて行かれるのやら。
「はいはい……」
そう思いながらも特に抵抗するでもなく、俺は姉貴の言うままに重い腰を上げてしまうのだ。
そしてこれがいつもの俺。
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