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◇
そうして着いた所は、青々とした芝生の広がるとある公園。
今日は天気もよく、親子連れやカップルなどで賑わっている。
「ほら、あそこの子猫と遊んでるあの人。あの人に声を掛けて欲しいの。自分ではなかなか勇気が出せなくて……」
一瞬、訳が分からず固まってしまったが――
「え……ええ!?」
何と! 今まで男に見向きもしなかった自分の姉の言葉とは思えなかった。
俺は再度その男性に目をやった。
子猫と戯れるその姿は、如何にも爽やか好青年。
その子猫は余程大事にされているのか、細いリードで繋がれている。
「このところ週に一回、土曜か日曜にあの子猫とこの公園に来てるの。大体お昼の2時くらいに来て3時には帰っちゃうんだけど」
へえ、結構入念にリサーチしてるじゃん。
俺に丸投げと言う訳ではなかった所は見直した。
「最初は黙って見ているだけで良かったの……でも、どうしても諦められなくなって。だからダメ元で声を掛けてみようと思ったんだけど……」
「それが出来ないから俺に頼むと」
本当に、まさか姉の恋の仲介役を頼まれるとは。
「よし、わかった。そう言う事なら引き受けてやるよ」
「本当! やったぁ! やっぱり優ちゃんて名前の通りで優しーい!」
姉貴だけでなく、頼まれ事をするとどうしても断れない俺。
この性格が名前のせいだと言うなら、ちょっとだけ親を恨む……ちょっとだけね。
でも今回は違う。
これが成功すれば、おねだりの矛先が彼氏に向いてくれるかも知れない。
そんな期待を抱きつつ、俺はその爽やか好青年の元へと向かった。
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