Sign of Love

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 なんて言葉を掛けていいのか分からないままに黙り込んでいると「でも」と、坂巻さんは照れくさそうに頭を掻いた。 「今日、佐倉さんと話をして改めて思い出したんだ。転籍を受け入れたのは、使う側の気持ちにもっと沿ったシステムを作りたかったからだって。だから、実際にシステムを使っている人たちの顔が見える環境で働こうと思ったんだ。システム開発による効率化って何なのかって考えると結局はさ、使う人を幸せにすること、なんだよな。少しでも便利になって、みんなが楽しく仕事をできるようになって、時間や気持ちにもう少し余裕が持てるようになってさ。家族や友達、恋人との時間を大切にできるようになったらいいなって」  ごめん、と慌ててハンカチを渡されて、いつの間にか目に涙を浮かべていたことに気が付いた。坂巻さんの前だといつも泣いてばっかりだ。 ……人は、悲しいとか嬉しいとか、それだけじゃなくて、心を強く揺さぶられたときにも、涙が出てしまうものなんだ。 「佐倉さんと会ったあの時に、大切なことをたくさん学ばせてもらった。人からあんなに感謝されたのも初めてで驚いたけど、本当に嬉しかった。僕はそれまで、そういうものが仕事のモチベーションに繋がるってことさえ知らなかったんだ」 「でも、わたしは――」 「気持ちはちゃんと伝わってたよ」坂巻さんはわたしの言葉を優しく遮った。
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