Sign of Love

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「坂巻さんって、本当に人を悪く思ったりしないんですね」 「そういう積み重ねで色々な対処の仕方が身についたからね。機会をもらえるのは今でもありがたいと思ってる」  ……なんだか、自分の心の狭さが恥ずかしい。 「ごめんね、さっきから仕事の話ばっかりして。とりあえず食べよっか。佐倉さんの帰りが遅くなったらいけないから」  フォークとスプーンをわたしのプレートの端に掛けながら、坂巻さんは微笑んだ。テーブルに置きっぱなしだったスマートフォンをそのままバッグの中に戻して、すぐに「いただきます」と手を合わせる。  メッセージが届いていたことを伝えなくては、と思った。でも、できなかった。刻まれていく大切な時間を抱きしめながら、今だけだから、と自分の心に言い訳をした。  食事を終えて店を後にする頃には、あれだけ降っていた雨もすっかり上がっていた。  お酒で顔を上気させた人たちの、明るい声がいくつも通り過ぎていく。行き交う人の邪魔にならないように、わたしと坂巻さんは交差点の少し手前で、歩道の端に寄った。
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