Sign of Love

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 ……わたしは今まで、坂巻さんの何を見ていたんだろう。彼が今までしてきた努力の積み重ねにすら気付けなかったことが、申し訳ない。坂巻さんが担当外の仕事をちゃんと把握しているのは、システム開発の裏側にいつも、使う人への想いがあったからだったんだ。  話をするほどに見えてくる、人や仕事に対しての真っ直ぐな姿勢を素直に尊敬し、……それがとても好きだと思った。 「嬉しかったよ、あの時の話をしてくれて。佐倉さんのおかげで、もう少しこの会社で頑張ってみようと思った。ありがとう」  わたしはぶんぶんと首を横に振った。 「わたしにとって坂巻さんはあの日からずっと、ずっと憧れでした。わたしも文句ばっかりじゃなくて、周りの人たちに感謝しながら、人を幸せにできるような仕事がしたい」  坂巻さんは少しだけ頬を赤らめて、はにかみの混じった笑顔を向けてくれた。 「雨は止んだけどさ、家の近くまで送ろっか」  わたしは坂巻さんの申し出に、素直に頷いた。  ハンカチで一度軽く目元を押さえた。横に並んで歩き出すと、指先が坂巻さんの手に掠った。思い切ってその手を握ってみると、坂巻さんは戸惑いながらもそっと手を握り返してくれた。
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