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金曜日。今日は普段よりも二時間早く出勤した。さすがに今日は部内でわたしが一番乗りだ。窓を開けて空気の入れ替えをしてから、デスクの上にバッグを置く。契約書類の山が配送されてくる前に自分の仕事を終わらせたい。夜には恒例の飲み会があるし、今日はそこに坂巻さんが参加することになっている。
……栞那には散々訝しがられたけど、先週の夜に何があったのかはまだ内緒にしている。
観葉植物の向こう側に目を送る。まだ誰も居ないシステム課。隣り合わせなのに、坂巻さんを避けていたせいもあって、ほとんど中に入ったことはない。吸い寄せられるように、パーテーションを越えた。
モニターがふたつ並んだデスクは綺麗に整頓されている。ここにあるもの全部がいつも坂巻さんが使っているものだと思うと、ちょっと特別に感じるから不思議だ。椅子に座ってデスクの上に肘をつくと、仕事をする後姿を思い出した。
坂巻さん……。
「おい佐倉」
「きゃー!!」
驚きのあまり金切り声を上げてしまったけど、この声は――
「新井さん!」わたしは慌てて椅子から立ち上がった。
「今、随分幸せそうな顔してたな。おはよう」新井さんはにやにやしながら、わたしの肩にぽん、と手を乗せてきた。
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