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優月くんが缶ビールを僕に向けて掲げる。改めて自分の缶を優月くんの缶にぶつけた。
「まきちゃんってなんで彼女いないの?」
「なんで、と言われても」自分で言うのもなんだが、おおよそモテるタイプではない。
「メッセージしてた子、家まで送ってあげたんでしょ。そのあとちょっとくらい何かあったりしないのー?」
「何かって?」
「キスとか」ビールを噴き出しそうになった。僕が思いっきり咳き込んでいると、優月くんが背中をさすってくれた。
「なんかさ、まきちゃんって大人しいようでいて、すぱっと潔いかんじあるからさあ。『この子だ』って思ったら、意外と積極的にいくんじゃないかなーって」
言っていることは間違ってない。が、それは『この子』が佐倉さんだった場合の話だ。
……キス、か。
柔らかい手の感触と、少し紅潮した頬。記憶の中で視線をたどらせると形のいい唇に、すぐに行き着く。好意は感じる。とはいっても、相手が頭の中で想像するものが、イコール感情の深層とは限らない。それに、触れてみたいと思う欲求の正体がわからないままに、不用意な行為で傷つけるようなことはしたくない。
「優月くんは?」
「えー、俺? しばらく彼女はいいやってかんじ。ってなるのもさ、嫌な事実に気が付いちゃったからなんだけど」
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