Sign of Love

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「どうしたの?」 「あのさ、前に言ったじゃん? 中途入社したばっかの人がリーダーだったプロジェクトが、軽く炎上したって話」  優月くんは唐突に仕事の話を始めた。たしか、何ヶ月か前にしていた掛け持ちプロジェクトだ。元々作っていたシステムがどうにもならず、顧客に伏せたままゼロから新システムを作り直して納品した、というような内容だった。  途中、顧客に動作を見せなくてはならず、元々使っていたシステムを即席で組み上げてデモ機として使うという、面白いアイデアで局面を乗り切ったと聞いて、僕も驚いたものだった。しかし、それと恋人を作らないことに何の繋がりがあるのだろう。 「その後、なにかトラブルでもあったの?」 「ううん、ぜんぜん。仕事自体はとっくに終わってて、お客さんも満足。そこはいいんだけどさー、実は俺、この間見ちゃったんだよね。あのときに神長が書いたコード。……正直、かなりへこんだ」  優月くんは空き缶を僕に預けて、ベッドにそのまま上体を倒した。アルコールで薄っすらと顔は赤いが、目は真剣だった。  神長くんというのは、そのプロジェクトでキーとなる働きをしたエンジニアだ。彼のことは僕も良く知っている。いつか大成するだろうなと、一目で感じさせるオーラのようなものがあるが、その仕事ぶりも凄まじいようだ。
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