2/2
前へ
/15ページ
次へ
 ようやく中間テストも終わり、生徒たちは解放感に包まれ、来る文化祭に浮き足だっていた。  しかし、その気分をひっくり返すような事件が起きた。  十月十日、川に流され浮いている問川守が、発見された。  引き上げた時にはすでに息をしておらず、運ばれた病院で、死亡が確認された。  警察は問川守が川岸で足を滑らせ、川に落ちた事故だろうと判断した。  だが、問川守のクラスメイトたちは、この事件を自殺ではないかと密かに疑っている。  問川守はある三人のクラスメイトから執拗なイジメを受けていた。  毎日行われる言葉による暴力。  お前は生きている価値がない。  死んだ方が世の中の為だ。  何でまだ生きているんだ?  笑い声とともに、それらは毎日、続けられた。  問川守はそれに耐え切れなかったのではないか。  生きる気力がなくなってしまったのではないか。  その考えが、クラスメイトたちの頭の中に浮かんだ。  けれど、それを口に出すものは、誰一人としていなかった。  よけいなことをして、とばっちりを受けるのは嫌だったから。  イジメを見て見ぬふりした時と同じように、クラスメイトたちは口を噤んだ。  そのことに罪悪感を覚えながらも。  クラスメイトたちの心に暗い感情を残しつつ時間は流れ、全てが日常に戻ろうとしていた。  そして、クラスメイトたちもそれを望んでいた。  早く忘れてしまいたいと願っていた。  もちろん僕も。  でも、このことは一生消えずに残るだろう。  問川守の最後のあの姿が。  眼鏡の奥の必死にすがってくるようなあの目が。  僕の記憶を縛り続ける。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加