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私はいつものように面会時間ギリギリまで彼の側にいた。そして、『今日は一緒にいよう』と提案したが却下された。
『ゆっくり休んで』
彼は私にそう言った。
彼の病室は個室だから、お風呂やトイレに隠れれば泊まっても看護師にはばれないし、寧ろわざわざそんなことをしなくても病院側に頼めば宿泊は可能だ。
「やっぱりだめ……?」
またそう聞くが、彼は優しく微笑んだだけだった。
「じゃあ帰るね。明日も来るから」
「気を付けて帰るんだよ。寒いとすぐ風邪引くんだから、家についたらすぐにお風呂に入って」
「もう。子供じゃないんだから」
そう言うと、彼は手を振った。
「じゃあね」
「……うん。また明日」
私は後ろ髪引かれる思いで病室の扉を潜った。
帰宅するとすぐに彼にメールをした。
マフラーをとり、ハンガーラックにコートを掛けている間に机に置いたスマホがバイブする。
『おかえり。今日もありがとう。今夜は寒くなるらしいから温かくしてね』
彼のメッセージを見た瞬間、それだけで胸が温かくなった。
それからはお風呂に入って、テレビを見て、ご飯を食べて、ゆっくりとした時間を過ごした。彼の教えてくれた通り今夜はとても冷える。暖房の温度を上げた。
二十三時頃になると、私は部屋の電気を消した。
ベッドに寝転がる前に窓の前に立った。
外は静閑としていて、それでいてどこか暖かくもあり、よそよそしかった。
赤、青、白の電球でライトアップされた木々たちが観客もいないこの淋しい住宅街でひっそりと闇夜を彩る。すぐ近くにある光景なのに、何故か私にはそれがひどく遠くに感じられた。
空を見上げると天気がぐずついているせいか星は見えなかった。ただただ斑のある灰色の勝った紺が横たわっていた。
今日は開けたまま寝よう。
私はカーテンから手を離してベッドに入った。本当は冷気が伝わってくるから普段はこういうことはしないのだけれど、今日は何となく…………、
サンタが煙突から落っこちてきて、プレゼントを置いていくのを楽しみに待つ子供のような気分で。
ただ今日は、そんな風にいたいと思った。
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