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「ねえ、雪斗! 雪積もってる!」
ノックも遠慮も無しに勢いよく病室の扉を開けた。
今朝起きて見た景色は世に言う銀世界だった。靴が埋まるほどの氷の結晶の堆積。そしてまだまだ降りやまぬ雪、夢見たホワイトクリスマス。
見るといつも閉じられているカーテンは開いていた。長方形に型どられたそこからは、真っ白な世界が静寂と共に広がっていた。入り口からではベッドの下方部分しか様子は確認できない。
私は穏やかなその空気に、逸っていた心が平らかになっていくのを感じた。
一歩足を踏み出してドアから手を離すと、ゆっくりと背後で空間は閉ざされた。いつもなら「おはよう」だとか、「知ってる」だとか、言葉を返してくれるはずの彼が黙り込んでいるのを、この異様なまでの安穏さに、違和感を感じた。頭の中で響く心臓の音が、徐々に嫌なものに変わっていく。
「……雪斗?」
寝て、いるのだろうか。
私はまた一歩、足を前に踏み出した。外から雀の鳴く音が聞こえる。
すると一瞬にして私の表情が固まった。
漸く気がついた。この、不自然にも感じる静寂さ。
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