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第一話 ~出会い~
-999年9月9日・曇り-
雲に厚く覆われた空からは光が差さず、すぐにも雨が降ってきそうだ。
空が暗い所為ではないが、俺の気分も、決して優れたものではなかった。
「やぁやぁ。よく来て下さいました、クラウザー少佐。その若さで今の座に就くのは大変なご苦労と努力があったことでありましょう。どうです、まずは…」
「余計な挨拶は結構です。私は、あなたの捕らえた囚人たちの偵察という任務を遂行しに来ただけですので」
「…失礼しました。こちらへどうぞ」
俺は屋敷の主人―クルシャ侯爵に導かれ、地下の監獄へと下りて行った。
―俺はこの類の人間が大嫌いだった。
自分より格下と思えば限りなく底辺まで見下し、格上だと思えばへこへこ頭を下げ媚びてきやがる。
軍にもこのような奴はごまんといるのだが…その中に身を置いている俺も俺なのか。
そんなことを少し考えながら、薄暗く長いらせん状の階段を下りていくと、そこにはおびただしい数の独房と囚人の姿があった。
等間隔に看守もいて、常に囚人達を見張っている。
「ここですよ、極悪人どもを収監している監獄は」
「………」
独房に収められ、ある者はすすり泣き、またある者は無罪を主張し叫び…抵抗し疲れたのか既に無気力な者もいた。
長い廊下を歩いていると、俺は一人の男に目が留まった。
長身で体格がよく…瞳にまだ生気がある。
何より、強い意志を感じた。
その男を見詰めていると侯爵が寄って来、言った。
「そいつの名は…確か…ギルバート・バリッシュといったかな。婦女暴行に殺人、放火…。他の連中と同じ、とんでもない悪党ですよ」
「ギルバート・バリッシュ…」
奴はそう言ったが、俺にはこの男―ギルバート・バリッシュがそのようなことをするような者には見えなかった。
―後々彼が何かやるのでは…
…歴史を動かすような、何か大きなことを―
俺はその時、そう思った。
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