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いつの間にか男は俺の後ろに回り込み、首元にトランプが何枚も突き付けられた。
トランプその物が刃物になっているのだろうか。
喉元に軽い痛みを感じた。傷が付いたようだ。
そして男は、俺の耳元で囁きだした。
「僕に危害を加えようとしない方がいいよ。僕だって暴力は嫌いだよ~?けど、自分の身を守るためには…」
マスクの隙間から覗く眼が冷たく鋭く光り、男の声がワントーン低くなった。
「相手を八つ裂きにするしかないからね」
「く…」
大佐が男に俺から離れるよう指示を出すと、「はぁい」と元のトーンで答え、離れた。
―まだ動悸がやまない。
この男のプレッシャーは、それほどのものだったのか。
それとも、未だに俺が……。
「彼の名はウィリアム・K・ミラー。私が呼んだ、手品の出来る殺人鬼だ」
「ハァ、ハァ……て、手品…?」
「大佐ぁ~…逆ですよぉ、逆!僕はごく普通の手品師です。殺しは副業!おまけです!」
普段は自慢の手品で、むしろ人々を喜ばせているんですよ?
そう言ってウィリアムは一人で可笑しそうに笑った。
こんな素性の知れない者を頼り、隊を出さなければならないのか、我々は―。
首元に触れると案の定、白いグローブに鈍い赤色の滲みが出来た。
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