猫の手借りました

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私は下町の決して新しくないアパートの一階に住んでいる。 下町生まれで都会の水が肌に合わないということもあるだろうが、都会は家賃が高くて経済的、現実的問題により選択肢は簡単にひとつにしぼることができた。 若い頃は都会に住んでいた。 一人暮らしの若者が多い街だからか、ちょっと歩けば飲食店がたくさんあって、電車に乗って二、三駅行けば百貨店があるような街に出ることが可能な場所。 終電を逃してもタクシーで帰ればいっか、と思えるところ。 あの頃の私にはそれが必要だった。 つい終電を逃してしまうほどの予定があったし、色々な飲食店で美味しい物を共有して一喜一憂してキャーキャーと黄色い声をあげ、朝から働き夜は次の朝まで遊ぶ体力も友達もいた。 みんな一緒にいたのに。 みんな一緒だと思っていたのに。 気が付けばみんな結婚して子供がいて。 私だけその輪からはずれてしまっていた。 いつのまにか。
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