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向こう側とウチのアパートとを隔てるコンクリート壁の上を足早に黒い猫がやってきた。
その後ろにもう一匹、これまた足早に、それでも黒猫と一定の距離を保ってサバシロがやってきた。
黒猫が「シャー!」と威嚇すると、息を飲んだようにサバシロが足を止める。
おいおい。
喧嘩ならあっちでやっておくれよ。
黒猫がもう一度「シャー!」と威嚇するとサバシロは恐れをなしたようにゆっくりと後退し、黒猫と十分な距離ができると走って逃げていった。
黒いの、強っ。
私がふーっと紫煙を吐き出すとその場に残った黒猫がこちらを見た。
私も黒猫を見た。
痩せ細ってはいるけれど美人な子だった。
黒猫はその場に座り込むと私から視線をはずし、毛づくろいを始めた。
それはさっきの殺気はどこへいったというくらい呑気な風景で、私は思わず笑ってしまった。
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