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人形族が子孫を残すときは、愛し合う二人が血液を混ぜて、白い薔薇に吸わせて祈る。そしてその三日後に荒野へ行って、三歳くらいの子どもがいれば儀式は成功だ。子どもを連れて帰り、後継者として育てる。人形族は不死だが、殺害されることはあるので、跡継ぎも必要なのだ。  ナジカの胸に顔をうずめ、小さな身体で泣き続けたローザは、その後何年たっても、この日の姿のままだった。  人形族史上にも例のない、十四歳で成長が止まってしまったのだ。何年たってもそれ以上変化する様子のないローザに、城内はもちろん、国民もざわめいた。 「おまえはどこまでも特別なんだな」  マリヤがそう言ったのは、明らかに皮肉だ。  自信家で、冷徹な印象の美貌を持つマリヤード・ヴィナカレントは、ローザとナジカをこの世に呼んだ「親」である。第一世代と呼ばれるとおり、ヴァステス帝国の創造者だ。マリヤと配偶者のフェザーキルの血が混ぜ合わされて、それを吸った薔薇から、ローザは生まれた。 「ナジカのときは満月の夜で、狼がいつもよりうるさく吠えているくらいだったが、おまえのときは、ひときわ済んだ色の月光と粉雪が薔薇に降り注いでいて、美しい子になる予感がした」  目を閉じて振り返るマリヤも、オレンジ色の髪を頭上で夜会風にした美形だ。めったに笑わぬ白い顔は、楽天的な配偶者の前でだけ笑みを浮かべるらしい。  第一世代のマリヤと配偶者のフェザーキル、第二世代のローザとナジカ。以上の四人が、現在の「アイスド・ローゼ」だ。百二十年ほど前までは、王室がすべての政治を取り仕切っていたが、時代の流れから、それとはべつに政府が生まれ、王家の者は意見したり公務をこなしたりするだけになった。マリヤは「隠居」だと自嘲しているが、国を動かすことに無関心なナジカや、まつりごとに自信のないローザはほっとしている。
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