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 ローザは、不機嫌そうに口唇をとがらせる。  気づけばもう、百五十年以上生きている。実際に十四歳だったのなんて、もうだいぶ前のことだ。それなのに、未だに子ども扱いされるなんて。 「見た目だけならじゅうぶん、子どもだよ」  順調に大人の姿になったナジカが笑う。  ふん、とすねて横を向くローザは確かに幼いが、その顔すら愛しく思えるくらいに美しい。波打つ長い髪に、海を聴くような貝殻の飾りをつけ、華奢で小柄な身体を純白のドレスに包んでいる。ナジカはずっとそばにいるのでもう何ともないが、公務などで町へ行けば、民のほとんどは、その美しさに圧倒されて、口もきけなくなる。臆せず寄ってくるのは子どもたちだが、無邪気な彼らは、ローゼを自分たちと変わらない年頃だと思っているのだ。 「そーいや、マリヤが何か、戦争するとか言ってたな」  寝ころんだまま、どうでもいいことのようにナジカがつぶやいた。 「え?」  ローザは驚いて飛び起きる。そんな話、初めて聞いた。「どうせ子どもだから」と、また自分だけ抜かされていたのだろうか。 「どこの、国と……?」  尋ねたローザに、ナジカは首を振る。 「聞いたような気ぃするけど、忘れたわ。確か、うちが主になってやるんじゃなくて、同盟国のに加勢するんだって」 「やだ……」  聞きたくない、考えたくないというように耳を押さえ、ローザは首を振る。  戦争はきらいだ。自分の国で起こるのでなくても、どこかで武器を手にした者同士が傷つけあっていると、想像しただけで恐ろしくなる。マリヤが平然とそんなことを決めているのが、いやだった。 「大丈夫だって。海の向こうの国らしいし。俺らには関係ないよ。たとえこっちに影響あったとしても、俺らはたぶん死なないし」  慰めるナジカは、それほど深く考えていない。人形族の特徴である、自己中心的な性格と無神経さを、多分に持ち合わせている。 「それでもっ」  王室では異質な考え方をするローザの肩を、ナジカはぽんぽんと軽く叩く。 「ならマリヤに言えよ。軍隊出すのやめろって」 「うん……」
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