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夕食の席で、ローザはおそるおそる、切り出した。
「マリヤ、いいたいことがあるんだけど」
人間なら親に向かってこんな口をきかないだろうが、人形族は基本的に、上の世代にも対等な口調で話しかける。
「ん?」
マリヤがナイフを持つ手をとめて、ローザを見る。鋭利な瞳と向き合うのが怖くて、ローザは瞳を伏せてしまう。皿の上の薔薇の赤が、ローザには、勇気のない自分を責めているように見えた。薔薇とその蜜を主食にしている人形族のために、特別に改良された花なので、血液のように赤い蜜を大量に溢れさせているのだ。
マリヤは、一度軽くナプキンで口元を拭って、「早く言え」と急かした。
「どうしたの?」
マリヤの隣のフェザーキル・タフィートロートも、首を傾けて、ローザを見つめている。プラチナシルバーの髪を頭上で緩く巻いて、エメラルドの瞳で微笑しているフェザー
は、気難しいマリヤが唯一心を許している相手だ。明るい性格だが、考えるのが苦手で、すべてをマリヤに委ねている。
「戦争、やめてほしいんだってよ」
うつむいているローザに変わって、食事を続けているナジカが、薔薇の花弁を飲み下すついでに口を挟む。
「何をバカなことを」
マリヤは一蹴した。
「援軍は明日にも、出発させることに決めている。同盟国の危機に何もしないわけにはいかぬ」
「何で……」
ローザはようやく言葉を発する。
「戦ったら、人がたくさん死んじゃうじゃない。どうして、争いが終わるように仲裁に行かないの」
何なら私が行く、と言ったローザをマリヤが冷ややかに睨む。
「おまえは何も分かっていない」
それで収まるならはじめから戦になどならぬわ、と鼻で笑った。
これ以上話は聞かない、とばかりに食事に戻ったマリヤに、ローザは敗北した。いつも強く言えないから、結局何も変えられないままだ。
「ローザ」
夕食の後、自室へ引き上げていくローザを、フェザーが小声で呼び止めた。
「ちょっと、おいで」
にこにこして、手招きしている。
ナジカは散歩に行ったし、することもないので、ローザはフェザーの部屋についていった。
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