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 願いは届かず、遠い国での戦は長引いた。泥沼化して、無差別な殺戮が横行していると聞かされたローザは、近頃、食欲もないし顔色も悪い。公務で町に行き、施設の子どもたちとふれあったりするときには笑顔を浮かべているけれど、それ以外はほとんど寝込んでいる。  いちばん近くでローザを気にかけているナジカは、こもりきりのその状態がよくないからと、外へ連れ出すことにした。 「ユラんとこにでもいかねー? しばらく会ってねーし」  言葉をかけるのが苦手なナジカにできるのは、こうして手をつないで引っ張ることだけだ。 「ユラに? ……うん、会いたい!」  ベッドに横たわって壁を見つめていたローザの瞳が、とても久しぶりに輝いた。  ユラフィリア・マステークスは、ごく最近新しく誕生した、第二世代の三人目だ。二人にとっては、年の離れたきょうだいに当たる。  理由は分からないが、城では暮らしておらず、マリヤの寵臣が自宅で育てている。人間の年でいうと、二十四歳だ。ローザと逆のタイプの例外で、ユラは二十代半ばなのにまだ成長が止まっていない。二十歳くらいの外見のマリヤやフェザーより年上に見える。 「どうして、ユラはいっしょに暮らさないの?」  ユラが幼かったころに、ローザはフェザーに尋ねたことがある。 「うーん。どーしてだろーねぇ? マリヤちゃんが決めたんだけど……子育てに飽きちゃったのかなぁ」  フェザーも、人差し指を顎に当てて首を傾げていた。マリヤのすることだから反対はしないらしいが、やはり、いっしょに暮らせないのは寂しいのだろう。  ユラもアイスドローゼの一員なので、本当なら城で暮らすことが望ましいはずだ。国民の生活を学ぶために街へ行くのは大切だけど、ずっとそこに身を置いていたら染まってしまうからだ。そのことをじゅうぶんに分かっているはずのマリヤが、ユラを呼び戻さずにあえてそうしている理由が、ローザには読めなかった。
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