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サングラスのサイズが合っていないと言うだけで、そこまで考えを巡らせる事が可能なものなのか。そう。このサングラスは阿久利が常備しているものではない。というか一つも持ってない。
同僚のものだ。ここに来る前に貸してもらったのだ。
「だとすると残る理由はひとつ。顔を見られたくないからだ」
阿久利は再びゆっくりと唾を飲み込んだ。が、緊張で筋肉がうまく動かない。予想よりも大きな嚥下をしてしまった。奥田は大きく動く喉仏を見ただろう。
「ここで考えなければいけないのは『顔を見られたくない理由はなにか?』ということだ」
阿久利は改めて恐怖する。
サングラスをしている理由として「顔を見られたくない」という結論に至ったのなら、一般的に考えられる答えは、『顔を覚えられたくない』からだ。
しかし、この男は『理由を考えなければならない』と言っている。それはつまり、『顔を覚えられたくない』というごく当たり前の理由には疑問を持っているということだ。
そして、その考えは当たっている。
阿久利は『顔を見られたくないからサングラスをしている』のは確かだが『顔を覚えられたくないからサングラスをしている』わけではないからだ。
「……普通サングラスで顔を隠すのは、何かやましいことをする時に目撃者に顔を覚えられたくないから、だ。
しかしお前の場合は違う。何かやましい事をこれから行うのなら、顔はおろか『そこにいる』ことも隠しておきたいはず。
にもかかわらずお前は看守には堂々と姿を晒している。遠くて顔は見えないにしても、だ」
奥田はそこまで言って、首を振りながら自分のセリフを否定した。
「いや、刑務所の出口の構造がああなっていると知っていれば、もしかするとお前はサングラスすらしていなかったかもしれない。
なぜなら看守のいる出口と、外門のあいだは五十~六十メートルはあった。
顔ははっきり見えないはず」
奥田は小さくため息を付き、呼吸をおいた。
「では……なぜ?」
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