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こういう時、男は自分の予感が良く当たる事を知っていた。
宝くじが当たるとか、美人が向こうから歩いてくるだとか、少しくらい良い予感も当たってよさそうなモノだが、残念ながら一度もない。
数秒、どうしたものかと思いをめぐらせたが、ここからその車が止まっている道路へは一本道。左右はすべて針金フェンスだ。
避けようがない……。
意を決したように歩き出すと、小男も歩き出し、門の真正面で立ち止まった。
そして男が門の前にあと数歩でたどり着く位置に差し掛かったその時、小男は明らかに男に向かって声をかけた。
「あなたが、奥田凱(オクダ ガイ)さんですね」
「人違いです」
奥田と呼ばれた男は横をすり抜け、歩道に出た。
看守は、『奥田』と小男が何事も無くすれ違い、門を出たことを確認して重い扉を閉めた。
どのくらい歩いただろうか。
奥田は小男の反応は見ずにそのまま歩き続ける。
ゆうに三十秒は経っていただろう。
「……っえ……えええええええええええええええええ!」
気づいたあ!
というか遅すぎる!
奥田は危うく振り返って思いっきりツッコむ所だったが、しかし振り向かず、弾かれたようにダッシュで逃げ出した。
背後でなにやら喚いているが、そんなことに構っている暇はない。
「ぜっっっったいロクな事にならない……!」
口の中で叫びながら、とにかく走った。
小男、阿久利有治(アグリ ユウジ)は心底ほっとしていた。
今日から配属された職場で、上司から初仕事として連れてくるよう言われた人間にいきなり逃げられたのでは信頼も何も無い。
あれからすぐに走って追いかけ、車は進行方向を塞いだ。足が止まった一瞬を狙って背後から体を入れ替え袖口と襟をつかみ、体制が崩れたままのところで脚を払い、柔道で言うところの「山嵐」で組み伏せた。
危なかった。
これが街中なら、人ごみに紛れ路地裏に入られ見失っていた可能性もある。刑務所が郊外にあってよかった。
……まあ、地上八十階建てオフィスビルの一室の独房や、八百屋、魚屋、刑務所、パン屋、みたいな並びの商店街が有ったらそれはそれで見てみたいが。
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