第一章 邂逅と後悔

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「……何歳だ?」 (……え? ど……どういう事?)  『何歳だ』とは何事だ。『貴様は誰だ』でもなく『私をどうする気だ』でもなく『どこへ行く気だ』でもなく『何歳だ』だって?  この質問に間違えた答えを出すと私はどうなる?  何かもっと深い意図が隠されているのか?  百歩譲って私たちの素性やこの状況の事ではなく私自身のことを質問するとしてもだ、最初に聞くのは名前だろう。  質問されないことに腹を立てていた数秒前の自分が懐かしい。「意図の読めない質問をされる」ことの方がこんなにも精神的に『クル』ものだとは知らなかった。  一番最初の質問が「年齢」だけは絶対ありえない。  そこまで考えて、阿久利は一番恐ろしい仮説にたどり着いた。それはつまり、「私の名前や素性はすでに分かっている」という……。 「……それを聞いてどうするんですか……?」  仮説に関しては全く触れずにそのままの質問を質問で返した。  そしたら睨まれた。  こわい。  慌てて目線を逸らし「……に、二十三です」と答えた。  奥田は眉をピクンと跳ね上げ、多少驚いたような顔を見せた。  それもそのはずだ。阿久利はかなりの童顔で、しょっちゅう未成年に見間違われる。  居酒屋で注文する際やコンビニで酒を買うと年齢確認をされる事にはもう慣れっこだし、もう『判ってくれている店員がいる店』しか行かないので、ここ数ヶ月はほとんどそういう事もなかった。が、数日前、久々の休暇に暑さを逃れてプールへ行ったら係員に「保護者の方は?」と、顔から火が出るほどの辱めを受けた。 「……ふうん……」  阿久利の年齢を聞いたあと、奥田は、また窓の外に目線を向けた。 (ええー!)  自分で質問しておいて(促されたからだが)、心底興味がないといったふうにまた外に眼を向けるとは阿久利も思っていなかった。  すると何か?  質問する事も無いが、促されたから仕方なくどうでもいい質問、いや、世間話をしたとでも言うのか?  主従関係どころではない。  阿久利は完全にナメられていると悟った。 (私が一方的に遠慮している事になっている。これではいけない!)  阿久利は、向こうがこちらをナメるのはまあ構わないが(いや、構わないことはないのだが)、こちらが遠慮し続けることだけはやめよう、と決めた。
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