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「……普通は『私をどうする気だ』とか『どこへ連れて行く気だ』とかでは?」
阿久利は思い切って踏み出すことにした。
奥田が眺める車窓からは、建物の隙間にほんの少し海が見えた。目的地が近い。もうあと十数分でこの車を降りることになる。ここまで来てしまっては話を先に進めなければならないのだ。
奥田からは返答がなかった。阿久利は言葉を続けた。
「私のことを聞くにしても、名前とか素性とか……最初の質問が『年齢』というのはどう考えてもおかしい気がするんですが……」
しばらくの沈黙の後、奥田は再び阿久利を睨んだ。
こわいよぅ……。
なんなのだこの男の眼光の鋭さは。絶対数人は殺ってる眼だ。
思わず奥田から目線をはずした。が、周りくどい質問はやめだ。そのまま確信に触れることにした。
「……殺されるかも……とか思ってないんですか……?」
奥田はしばらく睨み続けていたが、やがて目線を逸らした。
その時阿久利は見てしまった。
奥田が、口許にほんの小さく笑みを浮かべたことを。
「……まず第一に、お前らには俺を殺す気が無い」
奥田はきっぱりと言い切った。
「すぐにではなくとも、俺を『最終的に殺す可能性がほんの少しでもある』ならば、刑務所の前では待たない。例えばお前らが『ああいう所』に圧力をかけられるような立場だったとしても、絶対に道を一本外れたところで待ち、俺の周りに人気がなくなったところを狙うだろう。
元々人通りの少ない道だ。ひと手間を惜しんで失敗したのではお前らが上の人間に怒られることになる……しかしお前らはそれをしていない。
だとしたら、最初から俺に危害を加える気や、ましてや殺す気が無いと考えるのが自然だ」
阿久利は奥田の説明に納得し、次の瞬間あることに気づき戦慄した。阿久利が全く触れていない事実をあっさりとこの男は、今、言ったのだ。
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