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阿久利はゆっくりと唾を飲み込み、それを質問した。
「……ど、どうして私たちの『上に別の人間が居る』と……?」
奥田は事もなげに返答した。
「……あなたが」
「えっ?」
「お前は、俺と会ったときに
『あなたが奥田凱さんですね』
と言った」
「……」
「お前が俺のことを直接知っている、もしくは俺の事を探している当人であれば、最初に『あなたが』という言葉は付かない。街で見かけた知り合いに話しかけるとき『あなたが○○さんですね?』とは聞かないだろう? 確信があって、あくまで形式的に名前を聞くはずだから『○○さんですね?』と、直接名前が出てこなければいけない。
『あなたが』という台詞の前にはある言葉が抜けている。
つまり『話に聞いたあなたが』……だ。
お前は俺のことを直接は知らないんだ。誰かに俺を連れて来いと命令されただけ……ただの使いだ。違うか?」
疑問系ではあるが、奥田は阿久利の答えを聞くつもりはないだろう。
阿久利は自分の顔の筋肉がみるみるこわばっていくのが解っていた。
これでは全力でイエスと言っているようなものだ。
阿久利の脳内では、けたたましくサイレンが鳴り響いている。
私は今、とんでもない人間を相手にしているのではないか? と。
奥田は窓の縁にヒジをかけ、右手の親指、人差し指、中指の三本で頭を支え、言葉を続ける。
「あと、そのサングラスも理由の一つだ」
左手の指を一本ずつ立てながら、言葉を続ける。
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