第一章 邂逅と後悔

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「人がサングラスをかける理由は三つある。一つは陽射しが眩しいから。二つ目はサングラスが好きだから。三つ目は人に顔を見られたくないから。運転席の男はサングラスをしている。それはこの陽射しが眩しく、運転に支障が出るからだ。しかしお前は全く関係無い。助手席に座っていたのだろうからひさしを出すか、後部座席に移ればいいことだ。  暑い時のサングラスは煩わしい物なんだよ。汗で滑るしな。だからクルマに乗るためにサングラスをしているというのは考えづらい。たとえそうだとしても別の理由『も』考えるべきだ」  断定的ではない物言いに、少し付け入る隙もあるかと思ったが、事実、阿久利がサングラスをしているのは日差しが眩しいからではなかったので何も言い返せなかった。  奥田が指摘した通り、助手席に座っているときはサングラスは外していた。装着したのは刑務所の前に到着してからだ。  しかしそれは阿久利が今サングラスをしているのが不自然だという理由であって、普段は自分で車を運転していて、サングラスを常備している可能性を否定していない。  そんな考えを見透かすように、奥田は言葉を続けた。 「そして二つ目だが、残念ながらお前はサングラスが似合っていない。これで二つ目の理由は消えた」 「えっ! それだけ!?」  阿久利は思わず突っ込んだが、奥田は全く表情を変えず 「耳」  そういいながら、アゴでしゃくってみせた。 「な、え? は?」 「それ、どっかのブランドもんだろ?」 「……」 「俺はあまりそういう事に詳しくないが、その横についているブランドのロゴマークは見たことがある。少なくともディスカウントショップで売ってるような、ちゃちい品物じゃない。どこかのメガネ専門店で買ったものだろう。  てことは、メガネの『つる』の部分は、きちんと耳にかかるように店で調整するはずだ。  しかし、そのサングラスは、耳のかかる位置が奥にずれている。  つまり、お前より顔の大きな人間の持ち物だ。借りもんだろ」
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