どこにでも奴は

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「ただいま~」 俺は誰もいない部屋に入る。 今日も仕事で疲れた俺は、軽く食事を取ろうと冷蔵庫を開ける。 「今日はパスタでも作るか」 野菜を適当に取り出し、ケチャップを取り出し、用が済んだので扉を閉める。 「ふーんふーんふーん、と」 自分で作った即興の鼻歌を歌いながら、タマネギを刻む。 鋭い痛みが俺の眼を襲うが、予測済みだったので狼狽えはしない。 「ふふんふんふんっと。こんなもんで……おっと」 手から滑り落ちた刻まれたタマネギは、そのまま床にポトリと落ちた。 「あららら。まぁいっか。三秒ルールって奴で――」 拾い上げようと身を屈めたその時、悪寒を感じた。 このままではいけないと、俺の脳髄から警告が告げられる。 でもどうしたことだろう、俺の体はピクリとも動かない。 「う……あ……」 どうすることも出来なくなった俺の前に、ついにそれは姿を現した。 見るものを恐怖させる漆黒の甲冑、狂気を振りまく黒く輝く羽。 そして生理的嫌悪感を数億倍に膨れ上がらせる深淵の如き足。 タマネギとソレのコントラストに俺は、思わず叫んでしまった。 「ゴキブリだアアアアアッ!!!」
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