笑顔の君に逢いたくて

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ーーどこがいいかな。 8月も終わりに近づき、朔はパソコンに向かって思案していた。 澪と婚約して半年。7月の彼女の誕生日はメジャーデビュー記念ツアーの真っ最中で、一緒に夕食を食べることすら叶わなかった。 約束通り後期も学校には休まず通うつもりだし、半年後には挙式を控えている。身内だけの式にする予定だが、忙しくなるのは目に見えている。 だから今のうちに新婚旅行先を決めたいと思っていた。 ーー周りを気にせずに澪が楽しめる場所。 メジャーデビューしてからというもの、澪は外出の際に気を遣っているように感じられた。 the Steppenwolvesはライブバンドとしてのイメージを定着させるため、テレビ出演はせずにツアーで全国に行くことを優先させていた。告知はあえてSNSを中心とした。 CDや配信の売り上げは好調で、ジャケットやPVには自らを含めたメンバーの顔がはっきり写っている。 街を歩くと声をかけられることもあり、澪はそれを気にしていたのだ。 事務所とは普段通りに生活するという方針で一致していた。Tレコードはマスコミに対して充分な影響力を持っていたし、まだ顔がはっきりと知られていない内は、特に隠す必要もないという見解で一致していた。 それを澪にも伝えてあるのだが、彼女の性格を考えたら仕方のないことなのかもしれない。 軽やかな足音が近づいてくる。朔は慌てて作曲ソフトの画面を立ち上げた。 「朔。何か飲む?」 開けておいたドアから澪が笑顔でこちらを見ている。 「ありがと。……緑茶にする。」 「了解!ちょっと待っててね。」 にっこり頷いた澪がキッチンに戻っていく。 あの笑顔を陽射しの下で見たい。 そう思って朔はパソコンの画面に視線を戻した。
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