笑顔の君に逢いたくて

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朔が黙っていると拓海が澪の話を持ち出す。 「澪さんは何か変わった?」 「……外出は、はっきり聞いたわけじゃないけど気にしてる。だから写真撮られて澪が困るような場所は避けてる。」 翔真もいつのまにか顔を上げて朔の話を聞いていた。そしておもむろに口を開く。 「朔は今も毎日すんの?」 「……何で?」 「いや……婚約すると気持ちも変化があるかなって……。」 朔の怪訝な顔で翔真は引き下がりかけた。 そこに拓海が援護する。 「澪さん、最近色気増したよな。パブの制服姿だとよく分かる。」 龍二が頷いているのが見える。 ーーどいつもこいつも…… そこにノックの音がする。反射的に返事をした拓海が立ち上がり、トレイを持ち上げた。 入ってきた澪に視線が集中する。 「……ごめんなさい、打ち合わせしてた?」 「いや、雑談してました。おにぎり美味しかったです。ありがとうございました。」 すでに拓海は澪の眼前に立っていて、自分がトレイをキッチンまで運ぶとか言い始めている。 朔は澪の右腕を引っ張って自分の方に引き寄せた。 「俺がやるから。拓海はあっちいって。」 「……朔?」 不思議そうにしている澪の腰に腕を回し、拓海からトレイを丁寧に奪い取る。そのまま室外に出て、スタジオのドアを閉めた。そしてすぐに、あっけにとられた表情の澪の唇を塞いだ。 「んっ……みんな見てるっ……」 澪の背をスタジオのドアに押し付け、逃さないように肩を抱く。 小さな声で抵抗する澪の口内に舌をねじ込んだ。防音ドアにはめ込まれたガラスから、メンバーの視線を感じたが、朔は構わずキスを続けた。澪の身体から力が抜けたところでようやく彼女を開放する。 「もう……キッチンに戻れないじゃない。」 顔を赤らめた澪は羞恥で瞳を潤ませていた。 「春休みの予行演習。」 意地悪く笑ってみせると、澪が更に顔を赤くして俯いた。 「ごめん。……一緒に行くから、おいで。」 細い腰にまた腕を回し、階段へと誘う。 おとなしく付いてくる澪が愛しくて、朔は胸が温かくなるのを感じていた。
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