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「どうしたんだ? 俯いたりして? 目が見えれば外は今は綺麗な景色ばかりさ」
隣から父が私を気遣う声がした。
確かに目が見えれば、少しは安心感が得られるかも知れない。
心細さもなくなるかも知れない。
暗闇の中で怯えることもないかも知れない。
だから、今まで恐怖症のことは両親に隠していた。
私は父の方へ顔を上げて、笑顔を向けたが、ケチャップ入りのおにぎりを食べていた。
漠然とした不安を感じながらも、帰り支度をする。
家族でシートを片付け、私は右手にバスケットを持った。
今度は日が暮れる前に、山の名所へ行くのだ。
花の匂いを乗せた風に敏感になっていた。
春は一番好きな季節だった。
幼少の頃には、私は一人っ子だから思い出がたくさんある。
けれども、今は早く家に帰りたかった。
私は公園から駐車場へと、幾人かの通行人と横断歩道を渡った。
幼少の頃。父と母とよく手を繋いで横断歩道を渡った記憶がある。
あの時の安心感は今は芽生えない。
私が大人になったからだろうか?
車の音も何も聞こえないので、父と母を置いて俯いて歩いていた。
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