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信号が点滅しているのだろうか? もうすでに赤信号なのか? 人の足音が早々と横断歩道を渡る。
私も急いだが、この時。正確な方角がわからなくなった。人々は私を置いていく。
私は横断歩道の真ん中で途方に暮れた。
やみくもに前に向かって歩いていると、後ろから男の子の叫びが聞こえた。
「危ない!」
車のクラクションが四方から鳴り響く。
私は怖くなって、横断歩道で耳を塞いで佇んだ。
瞬間。
誰かが私の左手を掴んで、歩道へと引き寄せてくれたようだ。
「君。大丈夫かい? 目が見えないの?」
遠くから駆けてくる足音が聞こえた。
体が震えて、しばらく何も言えなかった。
次第に近づく足音は、父と母だった。
「純子。大丈夫か? ダメじゃないか、危ないから横断歩道は一緒に歩かないと」
「まあ、助けてくれてありがとうございます」
心配そうな父と、男の子に感謝する母の声を聞いて。自分の不注意にカタカタとなる足で立っていると、私は男の子の手を離さなかった。
「落ち着いて。もう大丈夫だから。この公園は広いから気をつけて。目が見えないんでしょ」
「ありがとう……ござい……ます」
私はあらぬ方向を見て、訳も分からず。涙を流していた。
何故か暖かい左手に感覚が集まっていた。
左手と足の震えが治まっていた。
原因はその男の子の手だと思い。
握る力を増すと、強く握り返された。
「もう大丈夫だよ」
男の子の優しい声で、私は涙が止まらない。声は私と同年代のものだ。
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