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父と母のひそひそ声の気配がする。
「純子。今日は山に行くのはよそう。母さんにも相談したけど、しばらく公園で休んでいよう」
何か含みのある父の声で、自分の涙に気づいた。
両親は外の世界の戦慄に気づいたのだろうか?
あるいは初めてのボーイフレンドができたと思ったのだろうか?
「俺もまだここにいるよ。だから、安心して、目が見えないなら、外は不安ばかりだよね。あ、俺は鈴木っていう名前なんだ。よろしくね」
繋いだ手を振って、私を元気づける鈴木君に、私は涙を拭きながら自分の名を名乗った。少し声が震えている。どうしてだろうか?
「鈴木君。学校はどこだい?」
父が私たちに興味を持ち出した声がした。
父も母も明るく大らかな性格だった。
「東野学園の高校三年です」
「まあ、あの有名校の?」
「よかったら、うちの娘と少し一緒にいてくれないか? その子。交通事故で目が両目とも見えなくなってね。いつも部屋に閉じこもっているから。外へ連れ出したかったんだよ。君なら安心だね」
とんとん拍子に進む父と母の話を聞いて、私は嬉しくて鈴木君の手を強く握ってしまっていた。
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