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連絡は大学に直接入った。校内放送で呼び出され、何かやらかしたか?なんて考えは、職員室ですぐに飛び込んで来た担当の先生の顔色で、違う事がすぐに解った。
担任からの話で連絡を受け、俺は警察署へと出向いた。名を告げればペコリと頭を下げて俺を案内してくれる中年の少し太り気味の男性警官。
その後を付いて行けば、階段から下に降りてすぐに感じた香りに俺は眉を潜めた。
こちらですと告げられ、開かれた部屋。戸が開くと同時に先程感じた香りの発生源がここであることを知らせていて、胸が嫌に苦しくなった。
部屋に入り警官が再び頭を下げて出て行くと、目の前には泣き崩れている母親がいて、他にいる兄弟は・・・誰も来ていなかった。
「かぁさん?」
「っ・・・父さんね、じさ・・・じっ、じさっ・・・」
現実の言葉として母親が俺に伝えようとしてるのが分かった。何が言いたいのかは、先生から聴いていたから。
「解ったから、も、解ったから、泣かないで・・・」
母さんは目が真っ赤で、髪もボサボサ化粧もして無い。多分父親は昨夜の内に逝ったんだろう。
俺達を家から出した後に母は父の手伝いで会社に行くから、その時に見つけたんだろうなと思う。
目の前の白い布を掛けられてる父親は、顔まですっぽりと被されていて、布を取らなければ父かどうかさえ判別は付かない。
光も届かない無機質の部屋の中、置かれた長テーブルに白い布を掛けただけの祭壇。立てられてる線香が、ジリジリと燃えては煙を天井へ向かって吐き出している。
それが先程感じた香りだ。
母親が横で嗚咽を漏らしてるのも、警察官がウロウロと出入りしているのも…
俺には何も感じなかった…いや、悲しすぎて現実が見れなかった。
父は小さな会社を経営して居て、その会社も倒産そして父親はその倒産の反動で自殺したのだろう。
大学に通っていた俺は一気に収入が途切れ学費を払い続けれずに葬儀が終わったら途中で退学する事となった。
前日まで笑い合ってた仲間も、荷物を纏める為に学校へ行けば誰も口を開かなかった。
多少仲良くしてくれた人達さえ、どう声を掛けて良いのか解らなかったんだろう。まぁ、俺はもういい…もうこの学校の学生ではいられないんだから。
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