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どこで私は道を間違えたのだろう。
どこで私は道を見失ったのだろう。
まともに恋愛なんてしたくなかったからこその、不倫という「まとも」とは程遠い恋愛。
「好き」だという言葉を聞くのは好きだ。
だけど別に、それをまに受けたことなんてない。
愛さなくていいから、好きなふりをしてくれればいいから、大事にしてくれる素振りを見せてくれればいいからーー
私はそう思ってきたつもりだった。
「ねぇ、もうすぐ付き合って二年になるね」
行きつけのバーで、私は隣に座るタクミに言った。
「アリサ、何か欲しいものある?」
私のグラスにウイスキーを注ぎながら、タクミは聞いてきた。
そもそも付き合うとは何なのか。
タクミには奥さんがいる。
ということは、「付き合う」という言葉はきっとおかしい。
私達がしていることは、所詮、恋愛の真似事であって、「付き合う」という体のいい言葉を使っただけの、単なるセフレのようなものだ。
きっと「付き合う」なんていうややこしい形をとったのは、「記念日」とやらを設けたり、私達二人だけの世界での「浮気」を防ぐためだろう。
いや別に、私は「付き合う」ということに何か不満を持っているわけではない。
記念日にお祝いをするのは楽しいし、イベントを二人で過ごすのも楽しい。
誕生日のお祝いや、クリスマス、バレンタインデー、そんなカレンダー上の数字を意味あるものにしてくれるのは、やっぱり嬉しい。
「ワンピースが欲しい」
「洋服?」
「うん。それかピアスか、バッグ」
「好き」という気持ちは、一体どんな気持ちを指すのか。
私はタクミが好きだ。
奥さんはさておき、私以外の女を抱いていたら嫌だと思うし、もしもそんな事があったとしたら、私はきっと寝込むほど病むに違いない。
だけど「奥さんはさておき」?
それは、「好き」に値するのだろうか。
私は別に、奥さんからタクミを奪おうなんて思っていない。
むしろ、奥さんがいるタクミが好きなんだ。
私を「可愛い」と甘やかして、デートに行けば奢ってくれるタクミが好きなんだ。
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