7人が本棚に入れています
本棚に追加
タクミと解散した後、私は自分の住んでいるアパートでリュウを待った。
リュウはもう一人の不倫相手だ。
「ちゃんといい子にしてた?」
私の顔を見るなり、リュウは私の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
「家で晩酌しながらいい子にしてましたよー」
「そっか。いいこ」
「リュウ、私のこと好き?」
「好き」
「女としてだよ?」
「他に何があるんだよ?」
「友達として?」
「女としてだよ。彼女として」
ふと思う。
私は「好き」だと言われたいんじゃないだろうか。
好きと言ってくれれば、誰でもいいんじゃないだろうか。
テレビをつけてると「子供が熱出しちゃってさ」なんて、萎えるようなことをリュウが言い始めた。
「こんな所に居て大丈夫なの?」
「まぁ、カミさんがいるから」
「そう」
この人が熱を出したとしたら、看病するのは私ではなく奥さんだ。
私と子供が同時に熱を出した時、この人が看病するのは子供だ。
子供に罪はない。
悪いのは私達で、可哀想なのは子供たちで。
子供を優先するのなんて当たり前だし、私はそこに対して何かを言うつもりもない。
何かを言うつもりもないけれど、子供という純粋無垢なものの知らない所で、あなたの父親は私のような得体の知れない女とやましいことをしているのだと考えると、とてつもなく自分が愚かな人間に思えてくる。
そして、自分が恋したこの男も、恋する価値もないんじゃないかと思ってしまう位、ゲスな男に見えてくる。
だから子供の話は聞きたくないんだ。
私のそういう空気が伝わったのか、リュウは機嫌取りをするかのように、私の頭を撫でて、キスをしてきた。
「今度、映画行こうか」
CMで流れた映画の予告を見て、リュウは言った。
「映画って二時間くらいあるんだよ」
「知ってるよ」
近場の映画館には行けないし、休日は家族サービスがあるし、平日は仕事があるのに、一体いつ行けると言うのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!