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現状維持を続けるだけの私。
疑問点には目を向けないことにした。
私には解決出来ないのだと、諦めることにした。
「こんにちは」
「・・・・・・こんにちは」
駅前の喫煙所で、見覚えの無い人に声を掛けられて、私はそれでも、もしかしたら知り合いなのかもしれないと挨拶を返した。
「これから飲みに行かない?」
「あ、ナンパか」
「可愛いなーって思った子に声掛けたら、それって全部ナンパになるの?」
むしろそういうのをナンパというんじゃないの? と私は思った。
一体彼は何を意味不明な事を言っているのだろう。
「俺が声掛けなきゃ、お姉さんと俺の出会いは無かったかもしれないのに?」
「何そのベタな口説き文句」
「そこらのナンパと一緒にしないでってこと」
私はリアクションに困って、まだ四回は吸えるであろうタバコの火を消した。
「待って待って。彼氏いるの?」
「彼氏」いるの?
私が自問してどうするのか。
「・・・・・・お兄さんは彼女居ないの?」
自答しないまま、私は彼に質問を返した。
「居たら声かけないでしょ」
「じゃあ奥さんは?」
「ますます声かけないでしょ、かけたらダメでしょ」
「・・・・・・そりゃそうだ」
突然ナンパしてくる男でさえ分かるような常識問題だ、そんなこと。
「お姉さん、名前教えてよ。俺、シンヤ」
「アリサ」
早くこの場を去ろうと思いながらも、足を止めてしまったのは何故なのか。
ナンパをしてくるような男だとしても、シンヤと付き合ったなら、堂々と手を繋いで道端を歩けるのかもしれない、場所を気にせずご飯を食べられるのかもしれない。
そんなくだらない妄想をしてしまったからだ。
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