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「私を知っているんですか?」
「木村さんの孫娘だね」
母と祖母の姓であり、父の姓と同じ苗字だ。
「この家はたしか叔父が──」
「そいつは事業に失敗して破産したよ。それであたしがここを引き取ったのさ」
「そうだったのですか……」
親戚つきあいがないとはいえ、まるで知らなかった。
「あたしは伊藤だよ。木村さんの旧い知り合いさね」
「それでこの家を引き取ってくれたのですね」
「それよりも、大事なものは見つかったかい?」
いきなり訊かれたが、その意味が分からなかった。
「お前さん、幸福を探していたんだろ?」
また訊かれて、言葉に詰まる。
「いつの時代も人生のタメにならない事ほど声高に叫ぶものさ。だから大事なものほど隠れてしまう。
耳を澄ませて心を開いてごらん。それを見つけるのが、人生という旅の目的だからね」
何もかも知っている口ぶりだ。
私が言いあぐねていると、目の前の白い綿毛が伊藤さんに近づいた。
「お前さんもご苦労だったね」
「その子を知っているのですか!?」
「ああ、知ってるよ。見せたいものがある。ちょっと来てごらん」
伊藤さんに案内されて、大きな蔵の前に立つ。こんな蔵はなかった筈だけど。
ごそりと扉を開けると、ふわりと心地良い風が頬を撫でる。
蔵に足を踏み入れると、内部の光景に眼を見張った。
そこは白い妖精の楽園だった。数え切れないほどのケサランパサランが、白々と蔵のなかで微光を放っている。
「これは……」あまりに神秘的で声がかすむ。
「木村さんから託されたケサランパサランを、ここまで増やしたのさ」
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