ケサランパサランへようこそ

10/12
前へ
/13ページ
次へ
「私を知っているんですか?」 「木村さんの孫娘だね」  母と祖母の姓であり、父の姓と同じ苗字だ。 「この家はたしか叔父が──」 「そいつは事業に失敗して破産したよ。それであたしがここを引き取ったのさ」 「そうだったのですか……」  親戚つきあいがないとはいえ、まるで知らなかった。 「あたしは伊藤だよ。木村さんの旧い知り合いさね」 「それでこの家を引き取ってくれたのですね」 「それよりも、大事なものは見つかったかい?」  いきなり訊かれたが、その意味が分からなかった。 「お前さん、幸福を探していたんだろ?」  また訊かれて、言葉に詰まる。 「いつの時代も人生のタメにならない事ほど声高に叫ぶものさ。だから大事なものほど隠れてしまう。 耳を澄ませて心を開いてごらん。それを見つけるのが、人生という旅の目的だからね」  何もかも知っている口ぶりだ。  私が言いあぐねていると、目の前の白い綿毛が伊藤さんに近づいた。 「お前さんもご苦労だったね」 「その子を知っているのですか!?」 「ああ、知ってるよ。見せたいものがある。ちょっと来てごらん」  伊藤さんに案内されて、大きな蔵の前に立つ。こんな蔵はなかった筈だけど。  ごそりと扉を開けると、ふわりと心地良い風が頬を撫でる。  蔵に足を踏み入れると、内部の光景に眼を見張った。  そこは白い妖精の楽園だった。数え切れないほどのケサランパサランが、白々と蔵のなかで微光を放っている。 「これは……」あまりに神秘的で声がかすむ。 「木村さんから託されたケサランパサランを、ここまで増やしたのさ」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加