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「でも、どうしてこれを私に……?」
「約束だったんだよ木村さんとの。本当はお前さんの父親から譲る筈だったんだけどね」
「私の父からですか!?」
思わず声をあげると、伊藤さんが眼を細めてうなずく。
「本当さ、木村さんは代々ケサランパサランを受け継いできた家系だからね」
「ではなぜ……?」
「それはね父親が、“幸福は娘が運んできてくれる”と辞したからだよ」
その言葉を聞いて、胸が衝かれて呼吸が止まった。
父の顔を思い描くと眼頭が熱くなり、止めどなく溢れた。
その濡れた頬を、案内してくれたケサランパサランが拭おうとする。
「……しぼんじゃうよ」
小さな相棒にそっと言う。
「幸福ってものは、自分ひとりが頑張っても手に入らないものさ。ましてや降ってきたり落ちているものじゃない」
伊藤さんが白い妖精に囲まれながら告げる。
「幸福はね、分け与えるものなのさ」
「私にも…できるでしょうか?」
涙を拭い訊ねると、伊藤さんは嬉しそうに笑う。
「あたしもそろそろ引退するから、この子たちを受け継いでくれないかね? 返事はゆっくり考えてからでいいからさ」
「いいえ。もう考えるのは止めたんです」
だって幸福は、損得勘定で考えるものではないと教わったから。
その時、また課長から電話が入った。
「木村君、もう用事は済んだかね。君がいないと困っちゃうんだよね」
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