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そっと掌を伸ばすと、ふおんと舞い降りた。
「きみはどこから来たの?」
両掌で包むと、さわさわと揺れる。
不思議だ。たんぽぽの綿毛みたいなのに生きている。
「きみも迷っているのね」
迷子のケサランパサランを家にもって帰った。
「たしか白粉を食べるのよね」
そんなもの家にあるわけがない。
代わりに小麦粉か片栗粉が、戸棚にあったはずだが。
「……賞味期限が1年も前にきれてる」
呆れて乾いた笑いしかでない。
仕方ないので、冷蔵庫にあった大福の粉をあげた。
テーブルの上でケサランパサランが、ぽふぽふと跳ねるように動く。どうやら喜んでいるみたい。
「そこで待ってて。お仕事するからね」
課長に無理強いされた資料を今晩中につくらないと。
何のことはない。社畜が骨身に染みている。
深夜に完成すると眠りに落ちた。
夢の戸口にある段差でよろけると、ハッとして微睡みから醒める。
テーブルに伏せていた顔の横で、ケサランパサランが寄り添うようにいた。
「きみも眠いの?」
白い綿毛が顔をくすぐる。
心のきめを撫でるような心地良さに、再び微睡みに包まれた。
うつろな夢闇のなかで、誰かが呼ぶ声を聞いた。
星に沈み、陽で浮かぶ。
仕事の朝に眠り醒めるのは、漂流した末に無人島に流れ着いた気分。
でも今朝は、白い綿毛が一緒だ。
「おはよう」
ケサランパサランは駅まで着いてきた。
スマホに眼をやり、うつむいたままの人々。
ところが誰も、私の前に浮かぶ白い綿毛を気にしない。
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