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「その子って……?」
思わず訊き返すと、女子高生が白い綿毛を見る。
「あなたケサランパサランが見えるの?」
女子高生がうなずくと、カバンから木の箱を取りだした。
「私もです」箱を開けると白い綿毛が見える。
私が驚いた顔をしていると、女子高生が空いた席に座る。
「はじめて他の子を見ました」
女子高生が言葉を選びながら言った。
「私は木村。この子は迷子で返しに行くところ。あなたは?」隣の席に座る。
「アヤノです。今からお見舞いに行くとこです」
「お見舞いって……お友達?」
「これ、父が好きな鯛焼きなんです」紙袋を掲げる。
「えっ、お父さん……?」
「入院しているの父なんです」
「まあ、それは大変ね」
「そうなんです。大変なんです」
その割に明るいので、返す言葉に困った。
「私いじめられていたんです」
ますます返す言葉がない。
「そんな深刻なやつじゃないけど、ネットいじめみたいな」
「それは大変ね」我ながら情けない返事だ。
「それを父が見つけて…人のスマホ覗くなんて失礼ですよね、って話が逸れました。怒った父が高校の先生に抗議に行ったんですよ」
「優しいお父さんじゃない」
「どうかしら。わたしの家は父子家庭で、普段はロクに口をきかないのに。何かその時だけは真剣に怒っちゃって」
「娘が可愛いのね」
「それで高血圧で倒れたからサイアクです」
アヤノが私の前にあるケサランパサランを見る。
「ケサランパサランがいるのに、全然幸せじゃないって最初思ったんですよ」
「ケサランパサランは幸福を運んでくるって迷信かしら」
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