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「いいえ、気づいたんです」楽しそうに笑う。
「気づいたって何を?」
「幸福って家族みたいなものかなって。身近にありすぎて気づかない。でも声にしないと分かり合えない存在ですよね」
アヤノに言われて思い出した。
──父は私の他に祖母の面倒も見ていた。
その祖母が亡くなると、それまで疎遠だった叔父が騙すように財産と家を奪ってしまったのだ。
それでも黙っている真面目な父に、私は心ない非難の言葉を浴びせた。
「損したじゃない」
「いいや。心は損なっていない」
そんな父に愛想を尽かせて、大学卒業と同時に都会に出たのだ──。
「父の病院、この駅の近くなんです」
アヤノが席を立つと、ケサランパサランも一緒に動く。だから私も途中下車した。
「木村さんはその子を返しに行くんですよね。それならうちの子も一緒に戻してくれませんか」
「えっ、でもお父さんがまだ入院してるし」幸福が側にあった方が良いとは言えなかった。
「もう幸福、見つけましたから」爽やかに笑う。
「では返しに行くね」アヤノの箱を受け取る。
「それに父は、鯛焼きの尾っぽまで餡が入っていれば幸せなんですよ。だから隣町まで買いに行ったの!」
アヤノがスキップを踏みながら手を振った。
別れの言葉はない。また逢えると感じているから。
しんみりと沁みてると、課長から電話が入った。
「木村君、先週もらった資料の件なんだけどね」
「課長、いじめられたことありますか?」
「はあ~。何だね君、唐突に?」
「いじめに遭っていた女子高生と一緒になりました」
「いじめはイカンよ最低だ。いじめなら相談に乗るよ」
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