ケサランパサランへようこそ

9/12
前へ
/13ページ
次へ
 じんわりと彩られていると、また課長から電話が入った。 「木村君~、先週にお客様からもらった商品だけど」 「それなら一番下の引き出しです。それより課長、老後の生活とか考えたことがありますか?」 「何だね君、藪から棒に?」 「奥様に先立たれた御老人と一緒になりました」 「独居老人は社会問題だね。それなら相談に乗るよ」 「老人ホームですか」 「それも良いが、民間の見守りネットワークを活用して地域と連携することで──」 「でも大丈夫みたいです。あっ、もう電車が来たので切りますね」  また白い綿毛が揺れるので、別の電車に乗り換える。  最後までケサランパサランについていくつもりだ。  それにしても、2つもケサランパサランをもらってしまった。  ふと外の景色を眺める。空と土と緑が色濃くなってきた。田舎のすがれた風景だ。 「ここって……」  やっと気づいた。これは故郷である祖母の家に続く線路だと。  電車は終点について停まった。  山の緑が沈んで茜の空がのっている。田舎の夜は早足。そろそろ暗くなってくる。  ここから祖母の家まで一本道だ。  でも不義理な叔父に泊めてなんて言えない。  重い足の私に反して、ケサランパサランは前に進もうと跳ねる。 「そうね。旅は前に進むしかないからね」  小さな綿毛の相棒に従って、のどかな気分で田舎道を歩いた。  やがて山の色をうつしたような家が見えた。祖母の家である。  鶏が歩く庭先に、見知らぬ老婆が佇んでいた。 「ようこそ。遠いところ良く来たね」  田舎にしては品の良い老婆が出迎えた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加