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じんわりと彩られていると、また課長から電話が入った。
「木村君~、先週にお客様からもらった商品だけど」
「それなら一番下の引き出しです。それより課長、老後の生活とか考えたことがありますか?」
「何だね君、藪から棒に?」
「奥様に先立たれた御老人と一緒になりました」
「独居老人は社会問題だね。それなら相談に乗るよ」
「老人ホームですか」
「それも良いが、民間の見守りネットワークを活用して地域と連携することで──」
「でも大丈夫みたいです。あっ、もう電車が来たので切りますね」
また白い綿毛が揺れるので、別の電車に乗り換える。
最後までケサランパサランについていくつもりだ。
それにしても、2つもケサランパサランをもらってしまった。
ふと外の景色を眺める。空と土と緑が色濃くなってきた。田舎のすがれた風景だ。
「ここって……」
やっと気づいた。これは故郷である祖母の家に続く線路だと。
電車は終点について停まった。
山の緑が沈んで茜の空がのっている。田舎の夜は早足。そろそろ暗くなってくる。
ここから祖母の家まで一本道だ。
でも不義理な叔父に泊めてなんて言えない。
重い足の私に反して、ケサランパサランは前に進もうと跳ねる。
「そうね。旅は前に進むしかないからね」
小さな綿毛の相棒に従って、のどかな気分で田舎道を歩いた。
やがて山の色をうつしたような家が見えた。祖母の家である。
鶏が歩く庭先に、見知らぬ老婆が佇んでいた。
「ようこそ。遠いところ良く来たね」
田舎にしては品の良い老婆が出迎えた。
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