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「あなたこそ、奥さんは大丈夫なの?」  心にも思っていないようなことを訊くと、職業癖が出てしまう。相手の耳障りにならないような優しい口調。 「あいつは鈍感だから大丈夫。飲み会とか適当に言っておけば誤魔化せる」  彼の口からほのかにたばこの匂いがした。女性はその匂いが嫌ではなかった。むしろ、どこか落ち着くような気がする。夫がヘビースモーカーだからだろうか。 「最低ね」  女性は視線を落として呟く。 「それはお互い様だろ」  その言葉に女性は思わず笑い、そうねと返す。  男性の手が離れていくのを感じて、女性は目をつぶる。また、始まる。目的はもう彼と会っている時点で、成されているのに。また、罪を重ねる。  女性は体を預け、男性の思うままに押し倒される。体がまるで誰かに操られているのではないかと錯覚する。  ベットの上で男性と目が合う。 「私ね、昔仲良かった友人に彼氏を奪われたことがあるの……あれは……辛かったな」 「なにそれ?」 「ううん、なんでもない」  体は火照ってきているのに、心はすごく冷え切っている。自分でも、なぜ彼にあんなこと言ったのかわからない。  彼の顔は次第に近づいてきて、たばこの臭いが口の中に広がっていった。
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