7人が本棚に入れています
本棚に追加
◆◆◆
昔からの友人の飯田麻衣(イイダ・マイ)から電話がかかってきたのは一昨日のことだった。川島里美(カワシマ・サトミ)が仕事を終えて、車に乗り込もうとしたときにスマホが鳴った。
美里は鞄から二つのスマホを取り出し、プライベート用の方が鳴っていることに安堵する。
スマホを仕事用とプライベート用に分けているのは、カウンセラーという職業のためである。美里はカウンセリングの予約を直接自分のスマホにかかってくるようにしているため、プライベートのことと混ざらないように分けている。それと、担当クライエントが自殺して亡くなったという連絡を受ける覚悟をするためでもあった。
カウンセラーとしての彼女の手腕はとても優れており、年中カウンセリングに駆り出される。彼女のカウンセリングの予約は半年先まで埋まっていた。
画面に表示された名前を見て、美里は心が跳ね上がった。すぐに画面をタッチして、耳元にスマホをかざす。
「もしもし、麻衣? 久しぶり」
『久しぶりだね……美里』
麻衣の声色を聞いて、美里の表情が引き締まった。
「どうしたの? 何かあったの」
カウンセリングの時のように優しい口調で言った。
『ごめんなさい……迷惑だってわかっているけど、美里にお願いしたくて』
麻衣の声は震えていた。
「迷惑なんて気にしなくていいわ。聞ける範囲で聞くから」
『ありがとう……』
そう言ってから、しばらく麻衣は泣いていた。とても感情的になっていると感じ取り、美里はとりあえず落ち着くまで黙っていた。
数分が経ち、だいぶ落ち着いた雰囲気になったのを感じて美里は声をかける。
「大丈夫。落ち着いたかい?」
最初のコメントを投稿しよう!