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『うん……』
麻衣は深呼吸して続ける。
『なんか疲れちゃった……もう全てが嫌になったの! 本当にどうしてこうなってしまったのか、自分でもわからなくなってしまって。お願い助けて、美里』
美里は麻衣の言葉を咀嚼していく。そして、カバンの中にあるスケジュール帳を取り出す。明後日はどうにか予定がつきそうだ。
「もし、よかったら私と話さない?」
「えっ? それはつまり……カウンセリングをしてくれるの?」
明らかに麻衣の口調が変わったのを感じ取った。やはり、電話越しだと全ては読み取れないかと、美里は肩の力を抜く。
「特別よ」
相手に表情が見えないというのに美里は優しく微笑んだ。
「本当に……? ありがとう。じゃあ、明後日ね」
そこで、通話は切れた。
なんか疲れちゃったか、と美里は心の中でつぶやく。正直、知り合いをカウンセリングするということに抵抗があった。二者関係は距離がとても大切になる。お互いに顔見知りだと、それだけで二者関係を築くことが難しくなる。どうしても、プライベートの美里とカウンセラーの美里でぶれてしまうからだ。
でも、そんなことは言っていられない。どうしても、彼女と会って話をしなくてはならなかった。
美里はふうと息をつき、時計に目をやる。
もう、そろそろ家をでなくてはならない。
「じゃあ行くわね」
ソファでタブレットと睨めっこしている夫に声をかけて、立ち上がる。
「あれ、今日は随分早いね」
鼻にかかったような声。彼のマイペースな性格がそのまま声になったようだ。
「今日は、友人をカウンセリングすることになってね」
「へえー珍しいね。いつもなら、断るだろうに」
「まあ、切羽詰っているみたいだったしね。たまには」
美里は鞄を肩にかけ、ドアに手をかける。
「行ってらっしゃい」
彼はこちらに微笑みかける。
「行ってきます」
美里は重い体をどうにか動かし、麻衣とのカウンセリングへと向かった。
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