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 白を基調とした室内は整然としていた。広さは六畳くらいで、東向きの窓から日が差している。 「先客がいるから、ちょっとそこにかけていて」  麻衣は頷き、近くにあるパイプ椅子に腰掛ける。  黒縁の眼鏡に白衣を着た美里は、いつもと雰囲気が違っていた。どんなことでも受け止めてもらえそうな、包容力がみなぎっている。なんとなく、彼女のカウンセリングの評価が高い理由がわかった気がした。    その彼女の前に髪を三つ編みにした女の子が座って、絵を描いていた。おそらく、その子が先客なのだろう。 「お、いいね。上手に描けているね」  いつまでも聞いていたいような優しい口調は女の子に向けられていた。  美里の反応に女の子は嬉しそうに微笑んでいる。 「これね、おうちなの!」 「そう、すごいね。どんなおうちかな?」 「私と美里先生がお話しているおうち!」  麻衣は居た堪れなかった。幸せというのはこういう光景のことを言うのだろうが、自分には無縁の存在過ぎる。そんな機会などもう二度と巡ってくるはずもない。だって、もう色々と壊れてしまっているのだから。  それから、麻衣はずっと耳を塞いでいた。もうこんな日常に疲れた――本当、色々と嫌になってしまう。  「じゃあね、美里先生!」という声が聞こえて、麻衣は顔を上げる。女の子は麻衣に微笑みかけ、カウンセリングルームを出て行った。 「ごめんなさいね。こんなところまで足を運んでもらった上に、待たせてしまって」 「いやいや、私こそ、無理言ってごめんなさい」  美里は首を横に振り、気にしなくて大丈夫よと言った。そして、麻衣を手招きする。麻衣はさっきまで女の子が座っていた椅子へと移動する。 「さっきの……女の子にもカウンセリング?」 「そうよ」  ――あんな、元気そうなのに。何気なく言った言葉だった。事実、麻衣が見た光景は元気あふれる女の子の背中だけだった。何も悩みなんて抱えていない――そんな背中だ。 「そう、麻衣にはそう見えたんだ」  そう美里が言うと、さっきまで女の子が描いていた絵を机の上に置いた。美里は麻衣にもよく見えるように向きを変えた。
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