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 窓の外から、子どもたちの元気な声が聞こえてくる。どうして――自分ばかりこんなに苦しまないといけなんだ。自分と対極にあるものを感じると嫌悪感を抱くようになってしまった。 「それは辛かったね」  今までで一番、美里の口調が柔らかかった。自分がなくしたものをまるで補完してくれるようなそんな感じがした。  それからは、ずっと愚痴をただただ吐き続けた。今まで誰にも言えなかったことをこの空間でしか言えないことを曝け出した。気持ち悪い、気持ち悪いと、自分だけでは留められない黒々とした汚物を彼女と共有した。  彼女は言葉通り、拒絶することなく受容の姿勢を貫いた。だから、そんな彼女に麻衣は甘えてしまった。  信頼という怠慢が、ぽろりと言わなくても良い余計なことまで口走らせた。 「だから、私もやってやったのよ、不倫を。彼ではない誰かに愛を求めたのよ! それに相手も、奥さんが居るようでドキドキしたわ」  握られていたペンが美里の手から滑り落ちた。平穏に聞いていた彼女が初めて見せた動揺だった。でも、麻衣には彼女が動揺した理由がさっぱり分からなかった。  友人がそこまで落ちてしまったことに絶望でもしたのだろうか、いや、そんなことはない。それなら、愚痴を聞いている段階で動揺したっておかしくない。  では、一体――何に?  美里はペンを拾い、久しぶりに口を開く。 「あらら、大胆ね。ちなみに、お相手さんはどんな人なの?」    麻衣は彼女の様子を窺いながら、慎重に言葉を選ぶ。 「うーんと、ヘビースモーカーでゆったりした感じの人だったかな。多分、そんな呑気な人だったからこそ、私も積極的に行けたのかも」  美里はそうなんだと、微笑む。でも、穏やかだった空間に張り詰めた空気が流れ始めていた。
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