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「何故ですか?」
「忠義心は、結婚という形でなくても昇華出来るからだ。愛のない婚姻生活は辛いだけだぞ。お前はまだ十九なのだ、今後もっと素敵な出会いがあるかもしれない」
俺の言葉に、ぎゅっとドレスを握りしめて俯くファレ。しばらくそうしていたが、やがて顔を上げた時、大きな瞳には涙が溜まっていた。
「……陛下は、わたしを愛してはくださらないのですか……?」
絞り出すような声に、俺は泡を食う。慰めようと手を取ろうとして、フラットの言葉を思い出し何とか直前で留めた。
「そうは言っていない。……が、愛する自信があるわけでもない」
先日、フラットには言い出せなかった結婚に対する気持ち。まだ自分の中でもまとまってはいなかったが、説得を焦る心が勝手に言葉を紡がせる。
「俺は即位してから年月が浅い。覚えることはまだまだたくさんあるし、喫緊の課題も山積みだ。そんな状態で妃を迎えても、満足に相手をしてやれるのはいつになるか分からん。――確かに側で支えてくれる存在はありがたいが、一方的に支えられるのでは駄目だと思うのだ……」
言いながら、何か違うと思った。今、妃を娶ることに対する後ろめたさが俺の中にあるのは確かだが、こんな表面的な話ではないような気もする。
黙って聞いていたファレは、指先で涙を拭うと、決意を込めた目で俺を見た。
「わたしは大丈夫です。寂しいのも耐えてみせます。陛下の疲れだって癒します。……この身体で」
「!?」
元々露出の高かった胸元をさらにはだけさせ、ゆっくりと近づいてくる。この急展開、俺の思考は周回遅れでついていけてない。手を出すわけにはいかん、でもこれは許可が出ていると思っていいのか? 違うのか? いや駄目だろうどう考えても。
「ちょ、ちょっと待てファレ! 俺はまだ――」
うろたえる俺の唇に、彼女は人差し指を当て、
「陛下の妻になると決めた時から、わたしは自分の身体に磨きをかけてきました。もちろん、他の殿方にもお見せしたことはありません。……今の側近の方では、陛下も物足りないのでは?」
齢十九とは思えない色気でさらに接近してくる。
「ファレ……」
まずい、このままでは触れてしまう。見合い当日にこんなことになったら、もう後には引けない!
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